“False Island”E-No.1347の周囲を彷徨う霧の末端。
水芸考察以外は基本行き当たりばったり進行中。
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野郎もとい禮嗣と黒翼兎と銀灰猫の関係は此処を参照。
元々只の人間だったのだが、とある出来事で禮嗣は半分人間・半分水(神)の存在に。
人間の身では強過ぎる水属性を纏う事になり、弱点となる事項が激増する。
元々弱い酒精への耐性は更に弱く、火の属性を強く持つ物の傍には近寄れなくなり、
親和属性の水さえも澱み邪気を発していれば凶悪な毒となる。
しかも身体の半分を構成する水の力は、時を経る毎に人たる領域を浸食する。
それは人ならざる者としての覚醒が齎した不条理な反動。
……それでも彼の生まれ育った豊穣の国の中ならば、問題は無かった。
使神(メルクリウス)たるキリエとディエの力の方が遥かに高く、
彼等による力の抑制、『枷』により人間とほぼ変わらぬ生活を過ごし火の傍でも平気だった。
……だが、島は郷里より遥かに遠く、何より使神の領域の外にある場所。
いつしか強固な『枷』も弱まり……ある日予兆も無く砕け散る。
押さえ付けられていた水の力は怒涛と化して彼の身体を瞬く間に変質させていく。
瞳の色と髪の色とが輝くほどの青みを帯び。
敢えて装っていたあの似非西方訛りは消え失せ、本来の静か過ぎる口調へ。
周囲には水霧が常に立ち込め、纏っていた衣装も神事的な装束へと織り変わる。
空腹も渇きも眠気も催さず食事も睡眠も殆ど意味を成さなくなり……
……人ならざる側へと、確実に変わりつつある日々のとある夜更けの話。
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……かちりぱちりと火が爆ぜる。
遺跡の中も外も冬の寒さ、冬の夜闇。
凍える夜気を祓うのは周囲に熱を振り撒く炎。
今も昔も、それは変わらない。
携帯暖炉の中で揺れる炎に一番近いのは丸まって眠る猫姿のディエ君。
少し離れて、毛布に包まり横になるマリアさん。
わたしがいるのは、そこからまた少し離れた場所。
わたしはキリエ。背に黒翼を持つ垂れ耳の黒兎。
黒兎は仮の姿とはいえ結構気に入っている。ふわもふで可愛いし。
ディエ君も猫は仮の姿。人に近い姿にもなれるけど、そっちも同じ。
二人の穏やかな寝息を聞きながら、宙を見上げる。
……炎が生む光の届く範囲を囲むように、水の気が満ちる宙を。
遺跡を歩く仲間の最後の一人が夜毎張り巡らせる水の結界。
少し前まで炎の傍で眠ってたのに、今はその熱すら身を灼く毒。
日々の食事作りも、火を用いるのはわたしの仕事になった位だもの。
足音を立てないよう、そっと二人の傍を離れる。
結界ぎりぎりに根を下ろす樹の枝にいる最後の一人のもとへ。
無意味だと分かってはいるけれど、夜毎同じ声を掛ける。
「……眠らなきゃ辛いよ、レイシ君」
睡眠も食事も、あの日を境に殆ど摂ってはいない。
時折口にするのは飴玉や幾らかの甘味、そして水だけ。
元々食事は野菜中心だったとはいえ、身体が持つとは思えない。
ただでさえ昼間は水の力を無理矢理抑え込んでいるのに……
あの豊穣の国の中ならわたしやディエ君の力で抑制出来た。
でも此処ではもうレイシ君の方が遥かに強く、余りにも脆い。
「……ねえ、ハリィちゃん呼ぼう? このままじゃ危険だよ」
3人揃えばきっと、と訴えるわたしに静かに首を振る。
――全ての皺寄せを“彼女”に負わせる事は出来ません。
「大丈夫だよ! “あの子”は強いもん、ハリィちゃんがいない間でもきっと……」
――貴女が使神(メルクリウス)として在る理由は何ですか、キリエ?
言葉に詰まる。
……わたしだって分かってるんだ。
本当に本当に危険になったら、取るべき手段は……
「……眠っとけキリエ。後は俺が見張ってる」
真上から降るディエ君の声。人の姿で、枝を見上げて。
暖炉の傍に座って初めて、凍え震える自分の身体に気付いた。
湧き続ける生命を象徴するかのように輝いて燃え続ける炎。
わたし達でさえ、炎無しでの極寒の中では命を落としてしまう。
……この世界を姿変えて巡る水も生命の象徴なのに。
どうしてレイシ君だけ、帳の外を強いられなきゃいけないの?
生命の炎の帳の外、生命の水の帳の外、人の帳の外……
――Blanket of Night
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